【第70回 Spolink & encounterセミナーレポート】まさか〇〇で!?世界とんでもドーピング違反事例5選!~どうすれば回避できたのか?をスポーツ薬剤師&スポーツ弁護士が解説!
ブログ班の錦戸(https://twitter.com/Nishi_249)です。
一般の方々にとって、”ドーピング”は身近な存在ではなく、スポーツに携わる仕事をされる方にとっても学校では習ったものの、あまり馴染みがないのではないでしょうか。
僕は柔道モンゴル代表に携わってきて、国際大会だけでなく、国内においても抜き打ち検査があったりして、何度か立ち会った経験があります。
よくニュースで取り上げられるように、トップレベルの選手や大会に関わるのであれば、知らなかったでは済まされない重要なものです。
今回は、スポーツ薬剤師とスポーツ弁護士のお二人から、実例をもとにディスカッションが行なわれました。
登壇者紹介
【講師】
吉田哲朗 先生 https://twitter.com/telohan1
・一般社団法人ドーピング0会
・薬剤師、スポーツファーマシスト
ドーピング問題を無くすことに加えて、スポーツの安全安心に関わる知識提供を通じて、スポーツの価値を守り・高める活動としてSNSにて情報発信をされています。
山本衛 先生 https://twitter.com/lawyerYamamoto
・今西・山本法律事務所
・弁護士
スポーツ法に力を入れられ、法律家としてスポーツを支えることを主な業務とされています。また、法律だけでなく、団体の規定やIOCの規定、JOCの規定、スポーツ団体が定めている規定なども扱っておられるようです。
以前もセミナーをしていただいており、詳しい経歴も併せて、そちらのブログ記事をご覧ください。
【第66回 Spolink & encounterセミナーレポート】アンチ・ドーピングと法~ドーピング違反でなぜ弁護士?知っておくべきその役割とは~
【ファシリテーター】奥村 正樹 先生(https://twitter.com/Masa199001)
・Spolink JAPAN代表
・日本スポーツ協会公認アスレティックトレーナー / 鍼灸師
4つの問題
本題に入る前に…
まず初めに、4つの問題が出題されました。
ぜひみなさんも一度考えてみてから、下にお進みください。
①キスはドーピングになると思いますか?
②ステーキはドーピングになると思いますか?
③薬がドーピングになると思いますか?
④サプリメントがドーピングになると思いますか?
事例・コメント
各事例について、詳細はリンクを載せてあるのでそちらをご参照ください。
また、それぞれの問題に対して、ディスカッションで挙げられていたコメントを、簡潔にご紹介していきます。
【事例1】コカインを使用した相手とのキスでドーピング違反
意図的ではなく、思いもよらぬ経路より禁止薬物に触れてしまったケース。コカインを使用していた相手とキスしたことで、競技者から薬物が検出され、大会出場停止処分(後に出場停止処分が棄却)。
当時の記事はこちら⇨CAS ガスケの出場停止処分を棄却
コメント
どんな理由があろうと、少しでも検出されてしまうとその時点でアウト。チーム内で水分補給のコップやボトルを共有することであったり、身近なパートナーや家族間でも要注意。
【事例2】牛丼食べてドーピング違反
検査を受ける19時間前にレストランで食べたテリヤキ牛丼の牛肉から、禁止物質のエピトレンポロンが検出。4年間の出場資格停止処分。
この事例の詳細についてはこちら⇨LAWSON CASE:CAS
コメント
物質によって体内の滞在時間は異なり、いつどこで何を口にしたかは、その記録が重要。
飼育の際に筋肉増強剤を餌に混ぜているケースがある(特に中国・メキシコ・コロンビア)。
そのため、海外遠征時に食品を持っていくこともあるが、肉製品は多くの国で検閲が厳しくなっているためそこも要注意。
どこで、何を食べたかという食事内容の記録や写真は残すべき。
それに加えて、LINEのやりとりやレシートなども有効な証拠になるようです。
【事例3】身内のうっかりによるドーピング違反
喘息持ちの選手が病院で薬品を処方され、薬局にて受領。禁止物質の有無を聞くも、その双方から明確な回答はなし。
後日、薬局から禁止物質が含まれている旨を伝えられ、自身の薬箱からその薬品を廃棄。
ところが、薬品の説明書のみを置きっぱなしにしており、母親がそれを見て薬品が切れたものだと思い、独断で補充。
喘息が悪化した選手はそれを知らず、「薬箱の中に禁止物質の入った薬品はない」認識で謝って使用。10ヶ月の出場資格停止処分。
詳細はこちら⇨日本アンチ・ドーピング規律パネル決定2019-003事件
コメント
当該選手は十分気にしていて、本人は無自覚、そして母親も善意でやったことであるものの、処罰がゼロになることはない。本来は医療者側で止めておかなくてはいけないが、安全の保証が明確でないものは使用を控えた方が良いとのことでした。
【事例4】医師に処方された薬でドーピング違反
大会直前、選手は感冒用症状が悪化したため母の勧めで「プレコール」を飲むも改善がなく病院を受診。「レスリングをやっている」ことは伝えた上で、医師から「トニール錠10μg」「フスコデ配合錠」が処方。禁止物質に定められているものであり、1年8ヶ月の出場停止処分。
この事例の詳細はこちら⇨JSAA DP 2017-001
コメント
先の事例同様に専門家や家族を含めて、どこかで止めれたケース。そもそも「プレコール」も禁止物質であるため、選手の意識も低かったことが窺えるようです。
海外の場合では、薬の名前が異なったり、いくつか混ざった合剤であったりするため要注意。
また、国内であっても同じ名称であっても、その前後についているEXやDXなどの文字によって、中身が異なることは認識しておく必要があるとのことでした。
【事例5】普段使用するサプリメントでドーピング違反
いつも使用していたサプリメントから禁止物質の混入が発覚。
使用する際にパッケージやネットなどをチェックしていたし、過去の大会や同じく使用していた知人の選手が陽性になることはなかった。
なお、検査前のドーピング・コントロール・フォームでそのサプリメントの使用を申告済。
選手は全く心当たりがないと主張するも4ヶ月の出場停止処分。
この事例の詳細はこちら⇨JSAA DP 2016-001
コメント
より競技力を向上させるためにサプリメントは使用されがちではあるが、ベネフィットだけでなく、リスクがあることは把握しておかなければならない。
第三者認証を取得している製品を選ぶべきであるが、そこでもリスクが完全にゼロになるわけではないことは認識しておく必要があるようです。
まとめ
いかがでしたか?
最初の質問は4つともドーピングになる危険性があるという結果でした。
今回紹介されたケースはあくまで異例ではあるが、どんなに故意でないことを主張しても処罰が完全になくなることはありませんでした。
それでも万が一のことが起きてしまった場合のために、行動履歴が特に重要になってくるようです。
その例として、「使い切らない」「写真に残す」「ロッド番号を記す」などに加えて「LINEでの食事を誘うやりとり」なども証拠としては重要とのことでした。
選手個人がいくら気をつけても、コントロールしきれない部分もあり、家族を含めて知識を持っておくことや信頼のできる薬剤師の協力を得ることも大切になってくることを感じました。
セミナーの本題に入る前に吉田先生より「アスリートに何か問題が起きた時、例えばドーピングの疑いがあったとき、どこに頼るかとなったら弁護士。日常的にスポーツに関わる弁護士はかなり限られている。ごく稀であり、見つけるのが大変。」とのコメントがありました。僕自身も問題が起きたらどうすべきか、なんてことは考えたことがなく、このことを知らなければ路頭に迷っていたことでしょう。
ドーピング関連で困ったときのために、スポーツ薬剤師やスポーツ弁護士の存在を皆さんも知っておいて損はないことでしょう。
参加者のコメント
https://twitter.com/Giant_pandacat/status/1460977568283197441?s=20
次回の案内
< 第71回 Spolinkセミナー >
【日時】
2021年12月15日水曜日 21:00~22:30
【テーマ】
陸上競技長距離選手へのストレングス&コンディショニングサポートの取り組み
~競技特有のシーズンの進め方とチーム・選手ニーズへの対応~
【講師】
菅原 航陽 先生
・ABCR(Athletic Body Conditioning & Running)
【内容】
陸上競技、特に長距離種目においては、ストレングス&コンディショニング領域やアスレティックトレーニングの考え方の浸透率が低く、未だに「走ること」以外のトレーニングについての取り組みは非常に古典的なものが多いのが現状です。そういった環境での選手・指導者の啓蒙も含めたチームサポートの取り組みについてお話させて頂きます。
【ファシリテーター】奥村 正樹 先生
・Spolink JAPAN代表
・日本スポーツ協会公認アスレティックトレーナー / 鍼灸師
【参加費】無料(12/15 19時30分まで)
※22:00から22:30まで有志で懇親会を行います。